「瞭には悪いがこの正月からの三箇日、家から出てってくれないか」
樋口瞭-ひぐちりょう-は目の前に差し出された3万円と両親の悲痛の訴えを前に言葉を詰まらせた。
「当然でしょう。ニートのお兄ちゃんなんて親戚の前に出てこれるわけないじゃない」
妹の歩美-あゆみ-ですら両親の援護に回り、家族内で1対3という劣勢に追い込まれていた。
「あと、お兄ちゃんの部屋のWi-Fiのパスワード教えてね。甥っ子に教えないといけないから」
「ぜってーやだ」
「3日間の辛抱だから言うこと聞いてね」
「じゃああと3倍と、精神的苦痛の1万寄越せ」
「いい加減にしろ、瞭。もとはといえば大学卒業してすぐ働かないでズルズル引きずったからだろう。お父さんたちがどれだけお前のために苦労していると思ってるんだ!」
「体裁を守ってきただけだろう。俺から頼んだわけじゃない」
「そういう風に言うから正月はいつも親戚同士が険悪になるの。お願いだからお母さんの言うことを聞いて。いい子だから」
「うるせえ悪女。俺は俺のやりたいようにやる。来年も365日俺をよろしく匿え」
「親離れも出来ないお兄ちゃんほんとダサい。そんなんだから彼女できないのよ」
両親との間に入ってくる口うるさい妹に言われて難癖を吹っ掛ける。
「じゃあ、彼女が出来たら3倍出してもらおうか」
絶対に勝てると思っているのだろうか、妹は瞭の言い分を勝手に受け入れてしまう。
「家族とも付き合えないお兄ちゃんがそんなこと言っていいの?いなかったら3年は家から出てってよ。今すぐでいいよ!アーハッハッハ――!」
「ほぉん。言ったな。言っちまったな」
「――ハァ?」
一瞬静まり返る家庭のタイミングに合わせるかのように呼び鈴が鳴る。
母親が返事をしながら玄関に向かっていく。
すると――、
「えええええぇぇぇ!!?」
悲鳴に似た声を荒げる母親に何事かと思った父親と妹。瞭の動きに注視しながらも玄関を気にする二人の前に、着物姿に身を包んだ成人女性が現れたのだ。
敷居が高そうな雰囲気を醸し出しながら上品な着物と艶やかな長髪を靡かせて現れた女性に言葉を失っていた。落ち着きある身なりと仕草を見せる様子はまるで大和撫子の名に相応しい。
そんな名も知らない相手が唖然としている父親に深々と頭を下げたのだった。
「初めまして。瞭さんとお付き合いしております大内楓-おおうちかえで-と言います」
瞭さんとお付き合いしております・・・・・・彼女の言葉が聞こえてきても一瞬理解できなかった。
その表情があまりにおかしく、瞭はたまらず噴き出していた。
「なんだよーもっと素直に喜んでくれよ。信用ないな、俺って」
楓の肩を組んで勝利宣言が決まった瞭と、驚愕する妹の唇がプルプル震えだした。
泣いていたのかもしれない。
「あ・・・あり得ない」
「30万な。今すぐでいいぞ」
同じ言葉をそっくりそのまま返し、30万を寄越すように請求する瞭。
すると、目の前に300万の札束が父親のもとから投げ出された。
「この金で、旅行でも行ってこい」
このまま二人で両行に行くよう提案する父親。瞭もその意図を素直に受け入れた。
「嬉しいこと言ってくれるな。それじゃあ早速使わせてもらうわ」
300万を手にして瞳を輝かせる。瞭にとって初めて手にする大金だった。
「パスポート持ってる?」
「当然よ」
仲睦まじく外へ向かって歩き出す。
『お邪魔しましたー』
瞭と楓。樋口家は驚きながらも来年は良いことが起きそうだと、その夜は親戚に自慢話のように話してどんちゃん騒ぎをしていたのだった。
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樋口瞭-ひぐちりょう-は目の前に差し出された3万円と両親の悲痛の訴えを前に言葉を詰まらせた。
「当然でしょう。ニートのお兄ちゃんなんて親戚の前に出てこれるわけないじゃない」
妹の歩美-あゆみ-ですら両親の援護に回り、家族内で1対3という劣勢に追い込まれていた。
「あと、お兄ちゃんの部屋のWi-Fiのパスワード教えてね。甥っ子に教えないといけないから」
「ぜってーやだ」
「3日間の辛抱だから言うこと聞いてね」
「じゃああと3倍と、精神的苦痛の1万寄越せ」
「いい加減にしろ、瞭。もとはといえば大学卒業してすぐ働かないでズルズル引きずったからだろう。お父さんたちがどれだけお前のために苦労していると思ってるんだ!」
「体裁を守ってきただけだろう。俺から頼んだわけじゃない」
「そういう風に言うから正月はいつも親戚同士が険悪になるの。お願いだからお母さんの言うことを聞いて。いい子だから」
「うるせえ悪女。俺は俺のやりたいようにやる。来年も365日俺をよろしく匿え」
「親離れも出来ないお兄ちゃんほんとダサい。そんなんだから彼女できないのよ」
両親との間に入ってくる口うるさい妹に言われて難癖を吹っ掛ける。
「じゃあ、彼女が出来たら3倍出してもらおうか」
絶対に勝てると思っているのだろうか、妹は瞭の言い分を勝手に受け入れてしまう。
「家族とも付き合えないお兄ちゃんがそんなこと言っていいの?いなかったら3年は家から出てってよ。今すぐでいいよ!アーハッハッハ――!」
「ほぉん。言ったな。言っちまったな」
「――ハァ?」
一瞬静まり返る家庭のタイミングに合わせるかのように呼び鈴が鳴る。
母親が返事をしながら玄関に向かっていく。
すると――、
「えええええぇぇぇ!!?」
悲鳴に似た声を荒げる母親に何事かと思った父親と妹。瞭の動きに注視しながらも玄関を気にする二人の前に、着物姿に身を包んだ成人女性が現れたのだ。
敷居が高そうな雰囲気を醸し出しながら上品な着物と艶やかな長髪を靡かせて現れた女性に言葉を失っていた。落ち着きある身なりと仕草を見せる様子はまるで大和撫子の名に相応しい。
そんな名も知らない相手が唖然としている父親に深々と頭を下げたのだった。
「初めまして。瞭さんとお付き合いしております大内楓-おおうちかえで-と言います」
瞭さんとお付き合いしております・・・・・・彼女の言葉が聞こえてきても一瞬理解できなかった。
その表情があまりにおかしく、瞭はたまらず噴き出していた。
「なんだよーもっと素直に喜んでくれよ。信用ないな、俺って」
楓の肩を組んで勝利宣言が決まった瞭と、驚愕する妹の唇がプルプル震えだした。
泣いていたのかもしれない。
「あ・・・あり得ない」
「30万な。今すぐでいいぞ」
同じ言葉をそっくりそのまま返し、30万を寄越すように請求する瞭。
すると、目の前に300万の札束が父親のもとから投げ出された。
「この金で、旅行でも行ってこい」
このまま二人で両行に行くよう提案する父親。瞭もその意図を素直に受け入れた。
「嬉しいこと言ってくれるな。それじゃあ早速使わせてもらうわ」
300万を手にして瞳を輝かせる。瞭にとって初めて手にする大金だった。
「パスポート持ってる?」
「当然よ」
仲睦まじく外へ向かって歩き出す。
『お邪魔しましたー』
瞭と楓。樋口家は驚きながらも来年は良いことが起きそうだと、その夜は親戚に自慢話のように話してどんちゃん騒ぎをしていたのだった。
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